通帳に刻まれる無機質の数字
下るにつれて増え続ける数字
私と彼とのつながり
唯一のつながり
其処に、暖かな何かを感じる事はない
そこに見える空間と言うのは
人とのつながりを感じて初めて色がつくのだと
中3の春に初めて知った
父親との確かなつながりが無くなった今
友達とのつながりがいかに頼りないものだったかを
今の自分の居場所を考えて、実感した
私の嫌いな音
それは、いすがすれる音
きぃという音、がたと鳴る音
その音がするたびに
一つの記憶を思い出し、
そして、父親との距離が開いていくのを感じる
――いくら正しくてもだめなんだ
父がつぶやくようにそう言ったのはいつだったろうか
厳格な空気には真摯な思いが必要で
でも法の世界では個人の気持ちはないがしろで
そして規律から外れたものには正しさも与えられない
司法の世とはそういうものだ。
私は――
――もうだめだ
はっきりと口にした。
いすを引いて立つ父の顔が変わる
父の面影を残したまま
顔を伏せたまま発する口調が変わる
アナウンサーのような流暢さに
目が合ったそのとき、人格が変わる
父親は私の目の前から消えた
中3の春は別れの春となった
唯一の肉親と
そして、この世で最も恐ろしかった瞬間が
そのときだった
色のない桜の下で今
いったい、私は何を思って生きているのだろう
父はあの時どんな思いだったのだろう
どれほど考えても、私に父の想いを理解する事はできなかった
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- 2009/06/29(月) 21:23:42|
- novel β
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あなたにとってこの世で一番恐ろしいものはなに?
人でも物でも事象でもなんでも。
あなたにとっての最大の天敵はなに?
私にとっては、実の父親。
記憶にいるやさしい父親。
心に刻んでいる面白い父親。
彼の最後の言葉は至って単純だった。
―もうだめだ
それはそれまで必至になって、それ以外見えなくなるくらい必至になって
綱に掴まっていた時の最後の瞬間のようで
その瞬間から、私の記憶にいる父親はいなくなった。
母親が死んだの。
母親が殺されたの。
父親と愛し合っていたあのきれいな母親が。
真っ赤に揺れる夕日のような最後だったって。
私は泣いた。
私は憎んだ。
父親は泣かなかった。
父親は憎まないようにしていた。
でもあふれるものをすべて忘れないように。
深く
深く
さらに深く
感情の波に埋もれていった。
もう彼は戻ってこない。
もう父親は帰ってこない。
私は、一人の意味を知った。
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- 2009/05/20(水) 20:48:58|
- novel β
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すれ違う人を見る
1人
2人
立ち止まって人を見る
3人
4人
踏み出すたびに上下する肩を見て
あの人間は急いでいると
左右の歩幅の違いを見て
あの人間は手に持つバックに耐えていると
自分は観察している
学校までの1時間を自分はこうして遊んでいる
またひとり
背筋を伸ばしていながらも
足取り重い女の子が視線の先に
控えめに揺れる学生服
自分と同じ学校の指定服
彼女を見たときすぐに思い出した
昨日の夜に見た女の子を
タバコをくわえていた黒い女の子を
顔は違えど、同じ人物のように似ていた。
それこそ双子の証明のように思えた。
しかし決定的な差が見えた。
昨夜の彼女は威嚇する虎のようで
でも今見える彼女は怯えた鹿のようで
双子のはずなのに。
その違いがおもしろいと思った
人間は面白い
自分ノ存在にも気づかずすれ違い
鹿の少女は雑踏に消え
虎の少女は思考に埋もれ
これでまた、ひとつ見つけたと思わず口元に笑みを浮かべる
今、行き急ぐ人の流れに逆らって
ただ立つ自分は何に見えるだろう
きっと、捜し物を見つけた子供のように見えるだろう
いつもの時間が来た
その場で迷わず振り返り
あの鹿の少女が消えた方へと
学校へ向かう登校路へと
歩き出す
誰でもない、あの女の子に向けて言葉を送る
またあとでね、と
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- 2009/04/06(月) 19:37:14|
- novel α
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